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  無菌培養
について

 
 無菌培養を始めて20数年になりますが、フラスコを使ったのは最初の数回だけで、その後は、ほとんどすべてマヨネーズビンです。フラスコなどに比べて丈夫で口も大きく、移植等の作業が非常に楽にできます。食品保存用のビンなので、ホームセンター等でも安価で簡単に入手できます。
  キャップは無菌培養専用のものが市販されており、中心の穴に、ミリシールなどの通気性のあるフィルターを貼って使います。穴の開いていないキャップは、ドリル等で穴をあけて使います。完全に密封状態にしてしまうと、成長に大きな差が出るものが多く、着生ランなどでは、根が上向きに伸びることもあります。ただし春蘭などは、播種の時だけ密封状態にしたほうが、発芽が良いようです。
  クリーンベンチがあれば、マヨネーズビンが一番楽で使いやすいと思います。クリーンベンチは高価で買えないという人は、家庭用の空気清浄機で、クリーンベンチとおなじHEPAフィルターを使ったものが市販されていますので、フードを作ってかぶせれば簡易クリーンベンチとして利用できます。この場合は、風量がやや少ないので、空気の逆流を防ぐために、手を入れる開口部の面積を、無菌の空気の吹き出し部の面積より小さくして、必ず内部の陽圧を保つようにします。クリーンベンチ内部の気圧を、外部よりも高くなるようにするということです。
  フラスコ等の実験用器具類は、問屋が集中している東京の神田駅近くに、専門の小売店があります。一般的なものは、東急ハンズ等でも入手できます。培地の滅菌に使うオートクレーブは高価なので、圧力なべで代用できます。かっぱ橋道具街(東京の上野と浅草の間にある厨房関係専門の商店街)では、プロ用の巨大なものも売っています。私は18リットルのものを2つ使っています。圧力なべは非常に危険なもので、過去には大きな事故も報告されております。取り扱いには十分に注意してください。


   
培地と環境について
  
培地のゲル化剤としては、20年以上ゲランガム(ジェランガム、ゲルライト)を使っていますが、肥料に含まれるアルカリ土類金属(カルシウム、マグネシウムなど)の濃度や pHによって量を変えなくてはならないため、なれないと使いにくく、寒天のほうが無難だと思います。寒天は、食品用のものでも使えますが、試薬用(植物組織培養用)というものが市販されております。薬局等で取り寄せてもらえます。
  肥料は、試薬用の薬品類や有機物等を、ミリグラム単位で計量し混合して使っていますが、高価なデジタルのはかりなどがないと不可能なので、一般的には、ハイポネックスや水耕栽培用の肥料などでも問題ありません。私は、1mgまで測れるデジタルスケールを使っていますが、それほど厳密に計量しなくても大丈夫です。
  培地の内容については公開できませんが、植物の種類、地生蘭か着生蘭か、播種用か移植用か、あるいはプロトコーム用かなどによって、すべて、試薬の種類や濃度を変えないと、成長に極端な差が出てしまう場合があります。羽蝶蘭のように培養が容易で生長も早いものは、ハイポネックス等が簡単でよいと思います。ただし、濃度は薄くします。不自然に太くなったり、水に浮くような球根ができる場合は、窒素過多の場合が多いようです。
  また温度による影響が非常に大きく、室内に置く場合は、蛍光灯の熱を逃がすためにサーキュレーターを回したり、パソコン用の小型のファンなどを蛍光灯に直接あたるように設置して、高温にならないように努めます。理想的には、高温期には24時間エアコンをつけたままにしておければ、健全に生育させることができます。適切な培地に植えて、温度管理がきちんとできれば、夏でも白く先端のとがった球根を見ることができます。
  夏の高温期にエアコンを使えない場合は、蛍光灯を長時間つけても温度が上がるだけで成長せずに無駄なので、1日に1〜3時間だけで大丈夫です。秋に涼しくなってから点灯すれば再び一気に伸び出すので、最終的にはほとんど変わりません。私も7〜8年前まではエアコンを24時間つけていましたが、現在は自分がいる時しかつけません。ただし、換気扇は常に回しています。
  ホルモン剤は普通の培養には必要ありません。私は、雪割草のメリクロンのときと、春蘭をリゾームから発芽させるときに微量使うだけです。日本春蘭などは、培地にホルモン剤を使用しなくても、特殊な方法によってメリクロンで増殖することが可能です。洋蘭ほど容易ではないのですが、いったん成功すれば、リゾームのままで長期間維持、増殖ができます。一般的に双子葉植物は、蘭のような単子葉植物に比べて、メリクロン等の組織培養による増殖が容易です。


   
品種改良について
 
 完成された素晴らしい花を購入して親に使えれば簡単なのですが、高価な花は買えないので、親に使う花から作っています。何代も先に、どのような子供が何%くらい生まれるのか、一つ交配するのに、親の組み合わせを一時間近く考えることもあります。よりよい花を作ろうとする場合、優秀花どうし組み合わせるよりも、一度ほかの花と交配してF2を狙ったほうが、結局は近道になる場合も多くあります。
  まったく新しいタイプの花を作ろうとする場合は、ある程度の遺伝の知識が必要です。高校で習う程度の基本的な知識で大丈夫なのですが、実際には、遺伝子の連鎖等があるため、なかなか期待した通りにはいきません。また、孫の代まで培養しなければ結果が出ない場合も多く、長い時間がかかってしまいます。
 “泰仙”などの巨大輪黒潮千鳥の血を入れることで、羽蝶蘭の花は確実に大きくなります。また、黒潮千鳥は、早咲きという特徴も持っています。小輪ですが、茎が曲がらずきれいに咲きあがる安房千鳥は、全体の容姿は、羽蝶蘭など足元にも及びません。これらの地域変種等の長所を取り入れることで、一層素晴らしい花が生まれます。
  実生の過程で、きれいな斑入りが生まれることもあります。葉緑素阻害剤としても利用できる特殊な薬品によって、意図的に斑入りを作ることもできますが、使い方が難しく、植物そのものを枯らしてしまうことが多いため、やめておいたほうがよいと思います。現実には、無地の親からも多くの斑入りが出現します。私は長年培地の改良を続け、現在では、短期間で成長させることができるようになりました。適切な培地に、適切に播種、移植をすることができれば、羽蝶蘭岩千鳥などは一作で開花させることができます。



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